喜怒哀楽

日曜日。
電気ストーブが宙を飛んだ。


というのはウソで。
正確には、壁に投げつけられた、が正解。
飲みかけの赤ワインが畳に染みをつくって、
蹴られたハイテク空気清浄機はナナメに倒れてもなお、部屋を快適に保とうと呼吸を続ける。
ホコリなんかじゃないんだ。
この部屋の空気の淀みは、そんなんじゃないんだよ。


声は届かない。



じゃあなに。と聞かれたら、答えにこまってしまう。
君がまたウソをついた。とか、最近やさしくない。とか、そんなふうなことならよかったのに。
もっともっと漠然としたどうしようもなさが、たしかにどちらからの内側からも滲んでいて、
ズルイわたしたちは、更にそれすら気付かないフリでやり過ごそうとしていて、


むかついたんだよね。
そーゆーことじゃねーーだろ。って。



どうにでもなれ!と思って始めたものの、
まさかこんなに激しくなるとは思ってなくて、ビックリした。
ビックリして、涙なんて1ミリも出なかった。
怒り狂う相手の顔を目を逸らすことなく冷静にみつめながら、
この理由の無い戦争を、どこに着地させたらいいだろう、と考えていた。







月曜日。
左の手のひらに3つのつめ跡が痣になって残っている。痛い。
強く、強くグーを握り締めていたみたいだ。